一行怪談

一行怪談 (PHP文芸文庫) 吉田 悠軌

 今まさに電車が迫る線路上に、物欲しげな目つきの人々が立っていたので、踏み切りに身を投げるのは止めにした。

 寝る時に必ず、洗濯機を回し続けることだけは忘れないよう願いますが、それさえ守ればたいへんお得な物件だと思いますよ。

面白かった。 

・題名は入らない。

・文章に句点は一つ。

・詩ではなく物語である。

・物語の中でも怪談に近い。

・以上を踏まえた一続きの文章。

以上が凡例らしい。今日一日、仕事中の暇を見つけて考えてた。

 

・アラームの音で目を覚まし、音だけを頼りにベッドの下に手を這わせていると、誰かがそっとスマホを手渡してきた。

・毎年この時期、綺麗に飾り付けた雛人形の顔へ半田鏝を押し当てる娘の笑顔にもようやく慣れてきた。

・見事一位で完走した選手の元へ駆け寄ったコーチ陣がタオルを手渡し、頭からガソリンを浴びせ掛けた。

・校舎の壁に並んで取り付けられた「祝!人生部 全国大会出場!」の垂れ幕と木下さんを見上げながら、才能ある人間を羨ましく思う。

・さっき家を出る時は急いでいたので気にしなかったが、玄関にあった赤い靴に見覚えが無い。

・ファミレスの席待ち名簿に書かれている名前が全て、あの時救えなかった教え子達のものだと気付いた瞬間、店内の喧騒が消えた。

・2mほどのズタ袋を引き摺りながら集団下校する子供達の笑い声が、深夜の住宅街に響き渡る。

 

肝となる部分だけ見せるってやり方、SCP文章にも通じる魅力だと思う。